2011年 03月 04日
孫子・三十六計……ビギナーズ・クラシックス中国の古典 |
湯浅邦弘
角川ソフィア文庫
2008/12/25
定価:本体667円(税別)
このところ毎週土曜の朝、WOWOWで中国のテレビドラマ「孫子」を観ています。壮大なスケールと、波瀾万丈のストーリーに釘付けです。「いまから2500年前…」というオープニングのナレーションを何回も聞いたおかげで、孫武(「孫子」の“作者”)が活躍した春秋時代の末期が、どれぐらい昔のことかが頭に入りました。
呉の王に自分を売り込んでいるさなか、練兵を指揮することになった孫武は、自分の命令に従わなかった王妃2人を、軍紀違反の罪で王や重臣や民衆の面前で死刑に処します。軽い遊び心で武具をつけて浮かれていた王妃が青ざめ、恐怖し、泣きわめくシーン(週末の朝に観るにはちょっとヘビーですが)は迫力がありました。史実(伝承?)を知らなかった私は、この場面がどう収束するのか興味津々で観ていましたが、ほんとに刀が振り下ろされたのには驚きました。王妃を殺すというスタンドプレーを怒る王の息子は孫武を殺すべきだといきり立ちますが、王は非情なまでの孫武の能力を認め、将軍として採用します。このあたり、全員の激しい感情の動きや駆け引きには、現代の作家の解釈や演出家の想像力の余地がいくらでもあって、おもしろいドラマになるのは当然といえるでしょう。毎回毎回、これと同じぐらいのビックリ仰天の展開を楽しませてもらっています。
テレビドラマの宣伝ではありませんでした。私は「孫子」について、歴史教科書の1行分程度のことしか知りませんでしたが、その「孫子」を書いたのが、こういう世界のこういう人物だった(もちろんテレビドラマでの話ですが)と知り、どういうことが書かれているのか、せめてダイジェスト的知識だけでも仕入れようと思い、この文庫版解説書を手に取ったという次第です。
孫武の兵法思想をまとめた「孫子」ではありますが、今のかたちにまとまった経緯も成立年も明確ではないようで、本書も単純に「孫武著」とは書いていません。かつては、孫子の子孫で同じく兵法家の孫臏(そんぴん)が書いたという説もあったようですが、1972年に山東省の銀雀山墳墓から出土した竹筒によって、孫子の思想を反映したものであることは明らかになっているようです。
全13篇からなるその内容は、王たる者の心得(民が暮らしに疲れたら戦争には勝てません)から、前線の指揮官の統率力、情報の大切さ、行軍や陣の構え方、敵をあざむく方法、スパイの使い方、火攻めの方法など、なかなか盛りだくさんです。政治哲学的興味、ビジネス書的興味、軍事オタク的興味など、さまざまな興味に応える内容で、歴史のはるか昔から伝えられてきたというありがたみも相俟って、長く広く読まれているのだろうと重います。実際、先見の明のある、敬意を払うべき兵法書なのでしょう。
本書は、「孫子」のほかに「三十六計」もあわせてダイジェスト解説しています。南朝宗の将軍・檀道済(たんどうさい)は36の計略を使い、特に逃げるのを得意としたそうです。その故事に基づいて、明末清初(17世紀半ば)に編纂されたのが「三十六計」で、著者不明の俗書です。
6分類×6計で全36計。第一計「瞞天過海」(まんてんかかい)から第三十六計「走為上」(そういじょう)まで、なにやら有り難そうな四文字もしくは三文字のタイトルの「計」(計謀)が並んでいます。色仕掛けの「美人計」、敵を欺くためにわざと自分を傷つける「苦肉計」、そして第三十六計はもちろん「三十六計逃げるに如かず」。俗書の魅力で今日に伝えられているというところでしょう。
●ご用とお急ぎでない方はワンクリックをお願いします。
角川ソフィア文庫
2008/12/25
定価:本体667円(税別)
このところ毎週土曜の朝、WOWOWで中国のテレビドラマ「孫子」を観ています。壮大なスケールと、波瀾万丈のストーリーに釘付けです。「いまから2500年前…」というオープニングのナレーションを何回も聞いたおかげで、孫武(「孫子」の“作者”)が活躍した春秋時代の末期が、どれぐらい昔のことかが頭に入りました。
呉の王に自分を売り込んでいるさなか、練兵を指揮することになった孫武は、自分の命令に従わなかった王妃2人を、軍紀違反の罪で王や重臣や民衆の面前で死刑に処します。軽い遊び心で武具をつけて浮かれていた王妃が青ざめ、恐怖し、泣きわめくシーン(週末の朝に観るにはちょっとヘビーですが)は迫力がありました。史実(伝承?)を知らなかった私は、この場面がどう収束するのか興味津々で観ていましたが、ほんとに刀が振り下ろされたのには驚きました。王妃を殺すというスタンドプレーを怒る王の息子は孫武を殺すべきだといきり立ちますが、王は非情なまでの孫武の能力を認め、将軍として採用します。このあたり、全員の激しい感情の動きや駆け引きには、現代の作家の解釈や演出家の想像力の余地がいくらでもあって、おもしろいドラマになるのは当然といえるでしょう。毎回毎回、これと同じぐらいのビックリ仰天の展開を楽しませてもらっています。
テレビドラマの宣伝ではありませんでした。私は「孫子」について、歴史教科書の1行分程度のことしか知りませんでしたが、その「孫子」を書いたのが、こういう世界のこういう人物だった(もちろんテレビドラマでの話ですが)と知り、どういうことが書かれているのか、せめてダイジェスト的知識だけでも仕入れようと思い、この文庫版解説書を手に取ったという次第です。
孫武の兵法思想をまとめた「孫子」ではありますが、今のかたちにまとまった経緯も成立年も明確ではないようで、本書も単純に「孫武著」とは書いていません。かつては、孫子の子孫で同じく兵法家の孫臏(そんぴん)が書いたという説もあったようですが、1972年に山東省の銀雀山墳墓から出土した竹筒によって、孫子の思想を反映したものであることは明らかになっているようです。
全13篇からなるその内容は、王たる者の心得(民が暮らしに疲れたら戦争には勝てません)から、前線の指揮官の統率力、情報の大切さ、行軍や陣の構え方、敵をあざむく方法、スパイの使い方、火攻めの方法など、なかなか盛りだくさんです。政治哲学的興味、ビジネス書的興味、軍事オタク的興味など、さまざまな興味に応える内容で、歴史のはるか昔から伝えられてきたというありがたみも相俟って、長く広く読まれているのだろうと重います。実際、先見の明のある、敬意を払うべき兵法書なのでしょう。
本書は、「孫子」のほかに「三十六計」もあわせてダイジェスト解説しています。南朝宗の将軍・檀道済(たんどうさい)は36の計略を使い、特に逃げるのを得意としたそうです。その故事に基づいて、明末清初(17世紀半ば)に編纂されたのが「三十六計」で、著者不明の俗書です。
6分類×6計で全36計。第一計「瞞天過海」(まんてんかかい)から第三十六計「走為上」(そういじょう)まで、なにやら有り難そうな四文字もしくは三文字のタイトルの「計」(計謀)が並んでいます。色仕掛けの「美人計」、敵を欺くためにわざと自分を傷つける「苦肉計」、そして第三十六計はもちろん「三十六計逃げるに如かず」。俗書の魅力で今日に伝えられているというところでしょう。
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by booktrain
| 2011-03-04 23:13
| ●中国