2010年 04月 20日
ハナシがちがう!—笑酔亭梅寿謎解噺 |
ハナシがちがう!—笑酔亭梅寿謎解噺
田中啓文著
桂文珍解説
集英社文庫
定価533円+税
落語家にむりやり弟子入りさせられた金髪トサカ髪の不良少年・竜二と、破天荒だけど人情に厚い師匠・笑福亭梅寿が繰り広げるユーモラスな短編連作。「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」「子は鎹」「千両みかん」の7話を収める。古典落語の演目がタイトルになっていることから想像できるように、落語の噺と物語世界の話が、何かのポイントで連動しているという楽しい仕掛けになっている。
7話すべてで事件が起こり、それを竜二が解き明かすのだが、サブタイトルが「笑酔亭梅寿謎解噺」なのは、梅寿が解いて弟子の竜二が代弁するという体裁をとるから(そこは名探偵コナンみたい)。事件のオチは常にやさしく、まさに落語の人情噺の世界となっている。
型にはまった話を何度も稽古して同じ口演を繰り返すだけの古典落語の世界に、意味も魅力もまったく見いだせなかった竜二(笑福亭梅駆)が、人情に寄り添うあたたかい落語の世界の魅力に目覚めて行く。落語の魅力が説明的に書かれた箇所があるので引用する。
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なぜ、落語はおもしろいのか。繰り返し繰り返し稽古して、繰り返し繰り返し演じられるネタが、どうしてすりきれてしまうことなく、人の心を魅了し続けるのか。
それは、落語の根本が「情」だからである。人間が人間であるかぎり、「情」はどれほど繰り返されても滅びることはない。
(中略)
落語は、笑うためだけに聴くのではない。一度目は笑えたくすぐりも、繰り返し聴くと飽きてしまう。それなのに、同じ落語を何度聴いてもおもしろいのはなぜだろう。それは、落語の世界では、時間がとまっているからだ。殺伐とした話題ばかりが先行する今の世の中、核兵器も公害もテロもなかった「あの頃」の「あの連中」に会うために、皆は落語を聴くのだ。うまい噺家の手にかかれば、そういった架空の大阪が、目の前にいきいきと蘇ってき、客は一時、世の中の憂さを忘れて、落語の世界の住人になることができるのである。 (p.286-87)
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毎晩、落語のCDを聴きながら眠りに落ちる私ですが(米朝と枝雀がメイン)、まったく同感です。同じ噺を何回聴いたか知れませんが、いつもくつろげます。「笑酔亭梅寿謎解噺」はシリーズ化されているので、当分楽しめそう。
田中啓文著
桂文珍解説
集英社文庫
定価533円+税
落語家にむりやり弟子入りさせられた金髪トサカ髪の不良少年・竜二と、破天荒だけど人情に厚い師匠・笑福亭梅寿が繰り広げるユーモラスな短編連作。「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」「子は鎹」「千両みかん」の7話を収める。古典落語の演目がタイトルになっていることから想像できるように、落語の噺と物語世界の話が、何かのポイントで連動しているという楽しい仕掛けになっている。
7話すべてで事件が起こり、それを竜二が解き明かすのだが、サブタイトルが「笑酔亭梅寿謎解噺」なのは、梅寿が解いて弟子の竜二が代弁するという体裁をとるから(そこは名探偵コナンみたい)。事件のオチは常にやさしく、まさに落語の人情噺の世界となっている。
型にはまった話を何度も稽古して同じ口演を繰り返すだけの古典落語の世界に、意味も魅力もまったく見いだせなかった竜二(笑福亭梅駆)が、人情に寄り添うあたたかい落語の世界の魅力に目覚めて行く。落語の魅力が説明的に書かれた箇所があるので引用する。
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なぜ、落語はおもしろいのか。繰り返し繰り返し稽古して、繰り返し繰り返し演じられるネタが、どうしてすりきれてしまうことなく、人の心を魅了し続けるのか。
それは、落語の根本が「情」だからである。人間が人間であるかぎり、「情」はどれほど繰り返されても滅びることはない。
(中略)
落語は、笑うためだけに聴くのではない。一度目は笑えたくすぐりも、繰り返し聴くと飽きてしまう。それなのに、同じ落語を何度聴いてもおもしろいのはなぜだろう。それは、落語の世界では、時間がとまっているからだ。殺伐とした話題ばかりが先行する今の世の中、核兵器も公害もテロもなかった「あの頃」の「あの連中」に会うために、皆は落語を聴くのだ。うまい噺家の手にかかれば、そういった架空の大阪が、目の前にいきいきと蘇ってき、客は一時、世の中の憂さを忘れて、落語の世界の住人になることができるのである。 (p.286-87)
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毎晩、落語のCDを聴きながら眠りに落ちる私ですが(米朝と枝雀がメイン)、まったく同感です。同じ噺を何回聴いたか知れませんが、いつもくつろげます。「笑酔亭梅寿謎解噺」はシリーズ化されているので、当分楽しめそう。
by booktrain
| 2010-04-20 00:38
| ●落語