所長の本棚
2011-10-31T10:26:07+09:00
booktrain
ココロとアタマを元気にしてくれる本たちの記録 by 横浜テニス研究所
Excite Blog
長谷川恒男 虚空の登攀者……人はなぜ山に登るのか
http://booktrain.exblog.jp/16759031/
2011-10-30T23:58:00+09:00
2011-10-31T10:26:07+09:00
2011-10-30T23:58:11+09:00
booktrain
●自伝・評伝
長谷川恒男 虚空の登攀者
佐瀬稔著
山と渓谷社
1994年7月25日刊
定価:本体1748円+税野球選手やサッカー選手の評伝なら、競技を始めた理由については、親に教わった、部活に入った、やってみたら面白かった、という程度の記述ですませても許されるのかもしれない。しかし、登山はそうではない。生命の危険を冒してまで、人はなぜ山に登るのか。「そこに山があるからだ」という、いかようにも解釈できる回答は、問いの深さを映し出しているからこそ私たちの記憶に長くとどまっているのではないだろうか。
本書は、長谷川恒男(1947−1991)が山に登り始めた理由を、彼が生まれた時代に求めている。団塊の世代800万人が否応なく放りこまれた過酷な人生のレースというものがあり、そこから落ちこぼれた人々、反逆した人々が向かった先に登山があった、という説明には説得力がある。戦後日本の混沌のなかで山に向かった世代の生態描写は興味深かった(第一章「八百万人の風景」)。
登山家の評伝は、登山を始めた理由だけでなく、登山を続ける理由にも紙幅を割かなくてはならない。本書は、登山家・長谷川の成功や失敗をつぶさにたどっているが、記述の中心は、なぜその年に、その山を、そのコースで登ろうとしたのか、という動機の掘り下げである。その点でも、登山家の評伝は他のジャンルのアスリートス本とは異なる。他の競技なら、自己記録更新をめざすのは当然、オリンピック出場をめざすのは当然であり、従って、動機の説明よりも、いかにパフォーマンスを向上させたかという技術論が中心になるのではないだろうか。
同じ著者による森田勝の本(『狼は帰らず』)に続いて本書を読んだが、読み終わったいま残っているのは、明暗を分けた2人の登山人生のコントラストの余韻ではなく、同じようなコンプレックス、同じようなエゴに縁取られた、動機の描写の濃密さの記憶である。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
狼は帰らず——アルピニスト・森田勝の生と死
http://booktrain.exblog.jp/16627879/
2011-10-01T13:50:01+09:00
2011-10-01T13:50:00+09:00
2011-10-01T13:50:00+09:00
booktrain
●自伝・評伝
狼は帰らず——アルピニスト・森田勝の生と死
佐瀬稔著
山と渓谷社
2000年12月10日刊
定価(本体1600円+税)
1937年に生まれ、1980年にアルプスのグランド・ジョラスで転落死した登山家・森田勝の一生を辿る一冊。初版は1980年。
貧しく、学歴もなく、コンプレックスを抱えていた男は、登山で結果を出して自分を支えようとした。ひたすら山に登り続け、山に生き場所を求めた。孤高の登山家に人が期待する高い精神性を有していたわけではない。さびしがりやで人なつっこく、そのくせ空気が読めずに衝突を繰り返しては人を遠ざけた。目立ちたい、人に先んじたい、という俗な欲求も強く、自分が理想とする登山のためには人の迷惑を顧みず、登山隊のなかで規律違反さえ犯した。彼を嫌い、否定する人も少なくない。しかし、山に懸ける純粋な想いだけはだれもが認めるところであった。どうしょうもなく不器用で一途な山男の姿が浮かび上がる。
健康登山がせいぜいの私には、この本に描かれているような登山は無縁の世界だが、限界に挑む男たちの生き方に心惹かれた。
『神々の山嶺』の主人公・羽生丈二のモデルであもある。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
検印紙が貼られた本
http://booktrain.exblog.jp/16564089/
2011-09-16T22:35:00+09:00
2011-09-16T23:46:54+09:00
2011-09-16T22:35:23+09:00
booktrain
◎雑感・断想
中田輝夫著『精神科医の落語診断』(青蛙房)という本を読みました。昭和61年(1986年)4月10日初版発行の本で、私が手に取ったのは昭和62年(1987年)9月10日3版(3刷のことだと思います)です。写真は見てのとおり奥付ですが、検印紙が貼られた本などめったに見ないので、なんだかうれしくなってしまいました。青蛙房(せいあぼう)という社名にふさわしくカエルの絵が印刷された小さな紙(検印紙)に、「3465」という数字がスタンプで押され、カエルの腹には著者のハンコが押されています。
ご存知ない方のために説明すると、検印紙というのは、それが貼られた本だけが、著者も販売を認めたまっとうな本であることの証となる紙です。これが貼られていない本は、たとえば出版社が著者に払うべき印税を払っていないとか、製本所がチョロマカして古本屋に売ったとか、そういうことなわけです。ハンコを押した枚数だけ本が売られるので、著者には出版社から支払われるべき印税が正確にわかるというわけです。
その昔は、編集者が著者の家に検印紙を持参し、著者がペタペタとハンコを押していました。家族や弟子が押したこともあったでしょう。たぶん編集者が代わりに押すことがいちばん多かったのではないかと思います。ようするに信頼関係があるわけですから、出版社も著者も、そんなことをするのがばからしくなったにちがいありません。出版社が告げる部数を著者が信用して承認するということになり、著者による検印は廃止されました。そう変わった当初、検印のない本は出版社がズルをしているように見えたので、奥付には、「著者との合意により検印廃止」という意味の断り書きが印刷されていたものです。このごろは、そんな断り書きも見ませんが。
検印はめんどうくさかったでしょうが、昔の本のほうが、どこか本としての威厳があったような気がします。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
神々の山嶺
http://booktrain.exblog.jp/16555853/
2011-09-15T00:04:00+09:00
2011-09-16T10:31:51+09:00
2011-09-15T00:04:21+09:00
booktrain
●小説・物語
神々の山嶺(いただき)
夢枕獏著
集英社刊(上下)
1997年8月10日
定価:各本体1800円+税
集英社文庫(上下)
2000年8月18日
定価:上巻本体724円+税、下巻本体800円+税
山の歴史書には、人類初のエベレスト登頂は1953年5月のヒラリー(ニュージーランド)と書かれている。それまでに(それからも)多数の登山家が頂への道の途中で命を落としている。1924年のマロリー(英国)もその一人。しかし、マロリー失敗の70年後、彼が登頂に成功していたことを証拠づけるカメラが発見される。登山史を書き替えるかもしれないカメラをめぐる争奪戦が、物語の1本目の道。
羽生丈二(51歳)。山仲間との衝突や不幸な事故などで深い屈託を抱え込んだ孤高の登山家。名を変えてネパールに住みつき、外国登山隊のシェルパをして体力と金を蓄え、山の天候と地形を頭に刻み込み、高地順応訓練を繰り返す。密かに狙うのは、エベレストの冬季・無酸素・単独登頂。その超越的登山人生と、8年の準備のあとの挑戦が、物語2本目の道。
深町誠(39歳)。登山家でカメラマン。世界的スクープをものすべくマロリーのカメラを追う。その過程で羽生と出会い、己の人生を問い直しながら、羽生の最後の挑戦を撮影すべく極寒の高地に歩を進める。山と街、2つの世界のどちらにも居場所を見出しきれない男の内なる旅が、物語3本目の道。
3つの道がエベレストの頂へと続く道で交差するとき何が起こるか。それはこの本を読んでのお楽しみ。
登山の歴史、気象と地理、高地の身体生理と心理、登攀技術と用具、登山隊のプロジェクトマネジメント、エベレスト(チベットではチョモランマ、ネパールではサガルマータ)をとりまく国々の政治と経済なども興味深く、読みどころは多い。
エベレスト登山は一歩進むごとに立ち止まって苦しい呼吸をしなくてはならないが、この本は途中で立ち止まることができない。読み終えて思わず深い溜め息が出た。読み応え満点の山岳ハードボイルド小説である。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
スタンド・バイ・ミー(東京バンドワゴン)
http://booktrain.exblog.jp/16523637/
2011-09-07T21:35:00+09:00
2011-09-08T09:33:37+09:00
2011-09-07T21:35:11+09:00
booktrain
●小説・物語
スタンド・バイ・ミー(東京バンドワゴン)
小路幸也著
集英社刊
2008年4月30日
定価:本体1500円+税<東京バンドワゴン>という一風変わった名前の古書店を営む4世代同居の大家族と、そのアット・ホームな魅力に惹かれて訪れる常連客やご近所さんが繰り広げる、さまざまな事件や騒動や人間模様。巻末には、「あの頃、たくさんの涙と笑いを親の間に届けてくれたテレビドラマへ。」という献辞があります。まさに、この本がテレビのホームドラマそのもの。
『東京バンドワゴン』、『シー・ラブズ・ユー』に続く、<東京バンドワゴン>シリーズ3作目。
けっこう現実離れした、悪く言えばご都合主義的な展開も多いのですが(とくに、出版社を買ったり隣の空き地を買ったりして堀田家を危機から救う28歳の青年実業家の存在)、それもふくめて軽くて温かいエンターテインメントとして楽しめます。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
精神科医がものを書くとき
http://booktrain.exblog.jp/16515236/
2011-09-05T23:00:00+09:00
2011-09-05T23:28:11+09:00
2011-09-05T23:00:28+09:00
booktrain
●科学・医学・数学
精神科医がものを書くとき
中井久夫著
ちくま学芸文庫
2009年4月10日刊(広英社から1996年に発行された同名の全2巻本を編集)
定価:本体1200円+税
専門書の執筆や翻訳だけでなく、エッセイを書いたり、詩を翻訳したりもする精神科の泰斗(1934年生まれ)の小論、講演、エッセイを集めた本。自分の後に続く精神科医や医療関係者に向けた内容だが、門外漢の私でも十分理解できる。ちょっと興味の範囲外かなと思う文章でも、読み始めたらそれなりに面白いし、教えられるところがある。功名心や野心からではなく、つねに患者のことを考えながら研究と臨床の道を切り拓いてきた、プロフェッショナルな人生が浮かび上がる。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
シー・ラブズ・ユー〈東京バンドワゴン〉
http://booktrain.exblog.jp/16471879/
2011-08-27T12:17:00+09:00
2011-08-28T09:35:02+09:00
2011-08-27T12:17:34+09:00
booktrain
●小説・物語
小路幸也著
集英社文庫
2009年4月17日(単行本2006年4月)
定価:本体552円+税
前回の投稿に続いて古本屋〈東京バンドワゴン〉の物語。
冬 百科事典は赤ちゃんと共に
春 恋の沙汰も神頼み
夏 幽霊の正体見たり夏休み
秋 SHE LOVES YOU
亜美とすずみに赤ちゃんが誕生して、ますますにぎやかになる堀田家。心やさしい芸術家マードックと藍子の結婚。IT企業青年社長の藤島を危険な決意から救った堀田家男性陣のチームプレー。死んだことにして複雑な想いを封印していた妹の60年ぶり(!)の突然の出現に驚く勘一と、それをあたたかく見守る堀田家の面々。……きょうも古本屋〈東京バンドワゴン〉では、波瀾万丈だけどなぜかおだやかな時間が流れて行きます。
堀田家家訓を紹介しておきましょうか。
・文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決
・本は収まるところに収まる
・煙草の火は一時でも目を離すべからず
・食事は家族揃って賑やかに行うべし
・人を立てて戸は開けて万事朗らかに行うべし
・急がず騒がず手洗い励行(トイレ)
・掌に愛を(台所)
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
東京バンドワゴン
http://booktrain.exblog.jp/16465958/
2011-08-25T23:58:00+09:00
2011-08-28T09:38:57+09:00
2011-08-25T23:58:41+09:00
booktrain
●小説・物語
小路幸也(しょうじゆきや)著
集英社文庫
2008年4月25日(単行本2006年4月)
定価:本体552円+税
東京のどこか、下町の風情と人情がいまも残る町の一角に、〈東京バンドワゴン〉という変わった名前の古本屋があります。店の3代目の主である堀田勘一を頭に、4世代がにぎやかに同居する大家族物語。読めば心の肩こりが解けること請け合い。
勘一の亡くなった妻サチが、見えない姿になったいまもまだみんなといっしょに家にいて、物語の語り手となっています。小説は誰の視点で書くかが最初の大問題ですが、これは実に上手いやり方だと読んでいて思いました。神の視点、作者の視点でもなく、かといって登場人物のだれかの視点でもない(自由にどの場面にでも居られるわけですから)。ですます調で違和感がなく、ほっこり柔らかい空気が行間から漂います。
いまは少なくなった大家族。いまでは難しくなった金勘定とは別次元のやりもらい。ゆっくりした時間の流れ。そしてなによりも魅力的な登場人物たち。小学生の花陽や研人まで、だれもが類型的に描かれているわけですが、それは安心して読めるホームドラマに仕上げるための作者の確信犯的サービスです。
みんなそれぞれに弱さや傷もあるけれど、家族のなかではそれが少しも弱さや傷になりません。I'm OK, You are OK.の世界。だから途絶えることなく客人も訪れます。家族はこうありたいものです。
ふと、自分のキャラは登場人物の誰に近いか考えてみました。どちらかというと消去法によってですが、紺(勘一の孫で34歳のフリーライター)ですね。ホントは勘一や我南人になりたい私ですけど、なれません。でもI'm OKです。読んでない人にはわからないでしょうけど。
ちなみに、4つの短編(中編ですか?)から成っています。
春 百科事典はなぜ消える
夏 お嫁さんはなぜ泣くの
秋 犬とネズミとブローチと
冬 愛こそすべて
どれも、ほんのちょっと謎ときの楽しみが味わえます。シリーズ化されているので、しばらく楽しめそうです。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
刑務所図書館……社会に開かれた窓として
http://booktrain.exblog.jp/16319575/
2011-07-24T16:45:00+09:00
2011-07-24T16:46:55+09:00
2011-07-24T16:45:12+09:00
booktrain
●社会・事件
刑務所図書館ー受刑者の更生と社会復帰のために
中根憲一著
出版ニュース社刊
2010年3月30日
定価:本体2500円+税
たまたま手に取った図書館小説から関心がつながり、このごろ図書館に関する本をときどき読んでいます。定年後は図書館のボランティア司書あたりが理想です。有給スタッフならもっと理想です。古書店のアルバイト店員でもいいです。
今回、キャリアアップの意欲(?)から手に取ったのが本書です。関心の埒外だったため全然知りませんでしたが、2006年に約100年ぶりに監獄法が改正され(新しい法律の名前は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」)、刑務所・拘置所・少年院・に収容されている人々の読書環境がそれなりに改善されました。私物の書籍については保管冊数制限の撤廃が行なわれ、官本についても量的拡充や閲覧規則の改善に向けた定めが追加されるなど、受刑者の読書環境に配慮した改正が行なわれたそうです。新法で変わったのは、もちろん読書環境だけじゃないですけど。
本書は、新法の内容、日本の刑事施設における書籍・新聞等の扱いの歴史、各地の刑事施設(刑務所・少年院・拘置所)の図書施設の実態、イギリスの事例などを紹介・解説し、最後に、今後に向けて提言をした本です。
今後に向けた提言ですが、新法によって改善されたとはいえ、まだまだ受刑者の読書環境は不十分なようです。読みたい本がなかなか読めないため、出所後のために蓄えておくべき作業報奨金で本を買う受刑者もいるらしく、著者は、公共図書館との連携によって刑事施設での図書サービスを充実させるべきだと提案しています。具体的には、図書館から刑事施設に団体貸し出しを行なう、図書館司書を刑事施設に派遣して刑務所図書館の拡充を図る、新法で認められることになった受刑者の外出訪問先に図書館を含める、といったことが挙げられています。すぐにでもできそうな感じです。やりましょう。ボランティアスタッフが必要なら言ってください。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
スモールイズビューティフル再論……原発を経済計算で論じる誤り
http://booktrain.exblog.jp/16313600/
2011-07-23T09:30:00+09:00
2011-07-24T13:40:23+09:00
2011-07-23T09:30:54+09:00
booktrain
●思想・哲学・宗教
スモールイズビューティフル再論
E.F.シューマッハー著
酒井 懋訳
講談社学術文庫
2000年4月10日
定価:本体1000円+税
シューマッハーと言われても、ピンと来る人は少ないかもしれません。同じ名前のカー・レーサーがいましたが、私がシューマッハーと言えば、我が人生の書、名著『スモール イズ ビューティフル』の著者、E.F.シューマッハー(1911-77)です。この本は、シューマッハーが雑誌に発表した論考を集めて一冊にしたもので、発表年は1966年〜77年、主著にあやかった邦題がつけられていますが、原題はThis I Believe and Other Essaysです。前置きは以上。
久しぶりに書棚から手に取って、たまたま開いたページに、次のくだりがありました。
「教育は本当に採算に乗るのだろうか」という問い。まるで教育の目的が金銭報酬であり、教育自体は無価値であるかのようである。犯罪は採算に合うかと問う人がいるが、これは正当な問いである。しかし、「善は採算に乗るか、おこなう値打ちがあるのか、品のよい行動はよいことなのか」と問われるならば、おそらくうまく反論できなくても、この問いが正当性のない、下品なものであることをたちどころに理解する。そこで、私はもし人が目的自体を見誤って手段として扱うならば、生の堕落が生じると主張する。(p.244)
「第6章 都市と土地」の一節です。ここで(ここだけじゃないですけど)シューマッハーは空気、水、土(食物を生み出す土地や景観)、火(エネルギー)は、経済計算の対象ではなく、いわば超経済学として扱われるべきものだと論じ、その一例として、上に引用した教育の問題を挙げています。
私はこのくだりを読んで、原発をめぐる議論は経済学の領域で行なわれているけれど、それ以前の、というか、それより高次の、超経済学の領域で考えるべき問題なのだと改めて教えられました。
経済計算の土俵で考えても、事故がなくても必要な廃炉コストや、半永久的に続けなくてはならない使用済み燃料の管理や、そこからわれわれの子孫が感じる心理的不安や不条理感まで計算に入れるなら、原発が「適切な選択」であることなどないと私は思います。シューマッハーなら推進論者を黙らせる計算だってやってくれるでしょう。しかし、ここで彼が言っているのは、土地を守るという人間の使命に照らして、原発は経済計算の対象としてはいけない、計算の対象としたら生の堕落が起こるという、より根源的・実存的なことなのです。
いくつの事故があれば、いくつの命が奪われれば、私たちは原発を経済学で考える事をやめることができるのでしょうか。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
天使と宇宙船……なんとなく懐かしいSF短編集
http://booktrain.exblog.jp/16231626/
2011-07-05T23:15:28+09:00
2011-07-05T23:15:24+09:00
2011-07-05T23:15:24+09:00
booktrain
●小説・物語
フレドリック・ブラウン著
小西宏訳
創元SF文庫
1965年3月26日
定価:本体466円+税
ある星を訪問中に殺人を犯し、死刑を宣告された男。その星の習慣で、死刑前夜はなまめかしい美女と豪華な酒食の宴でもてなされること、そしてその星の一夜は、地球人の自分にとって93年の長さがあることを知り、そっと口笛を吹いた。(「死刑宣告」)
そんな超短編(2ページ完結のショート・ショート)8編と、もう少し長い短編8編からなるSF短編集。原稿をセットすると勝手に活字を拾って印刷する印刷機が、原稿の内容に感化されて暴走を始める「諸行無常の物語」、宇宙人の侵略(?)によって電気が使えなくなった地球の暮らし(そう悪いものじゃない)を描いた「ウァヴェリ地球を征服す」など、いまから半世紀近く前に書かれた時代批判を含む空想小説は、日に焼けたページから立ち上がる活字の臭いとあいまってどこかなつかしく、人間が「現代文明」に覚える違和感や不安は、今も昔も変わらないということを感じさせられます。
著者による「序」に、ファンタジーとSF小説の違いについて書かれている。それによると、ファンタジーに出てくる超自然的なものに科学的な説明をほどこしたものがSF、ということになるらしい。本書の何編かはファンタジーに分類されるべきかもしれない。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
私という運命について……女の仕事、結婚、出産、幸福
http://booktrain.exblog.jp/16178537/
2011-06-24T22:00:00+09:00
2011-06-24T22:05:41+09:00
2011-06-24T22:00:13+09:00
booktrain
●小説・物語
白石一文著
角川書店刊
2005年4月30日
定価:本体1600円+税(文庫版は本体740円)
主人公・冬木亜紀が、29歳から40歳までの10年で遭遇した結婚をめぐる3回の重大な選択。「運命」とは何か、「運命」は選べるのか、選んだ結果をどう受け入れたらよいのか……思い通りにいかない人生と折りあいをつける割り切り方を考えさせられる900枚の長編です。
ラベルを貼れば恋愛・結婚小説ということになると思いますが、Amazonでは辛口レビューが目立ちます。いわく、登場人物がみんなエリートっぽい、あまりにも多くの病気や事故や死や不運がご都合主義的に重なりすぎる、出産=幸福という価値観はいかがなものか……等々。言われてみれば全部少しずつその通りですが、練り込まれ、書き込まれた物語で読み応えがあり、私は十分堪能しました。(★★★☆☆)
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
幸福な生活……やられました!!
http://booktrain.exblog.jp/16174091/
2011-06-23T22:49:00+09:00
2011-06-23T22:48:59+09:00
2011-06-23T22:48:59+09:00
booktrain
●小説・物語
百田尚樹(ひゃくたなおき)著
祥伝社
2011/6/10刊
定価:本体1500円+税
これまで『ボックス!』、『モンスター』、『永遠のゼロ』、『風の中のマリア』、『輝く夜』と読んできました。さまざまな世界を楽しませてくれる物語上手ですが、この本はサイコスリラー短編集です。
奇数ページ(見開きの左側)に各短編の扉が置かれていて、話は必ず偶数ページ(右側)で終わります。その偶数ページに書かれているのは、どの話も1行だけです。腰巻のコピーは――
最後の1行がこんなに衝撃的な小説があったろうか。
つまり、最後のページを捲ったときに目に飛び込んでくる結末の1行で、読む者を驚かそうという趣向の本です。
収録作は「母の記憶」、「夜の訪問者」、「そっくりさん」、「おとなしい妻」、「残りもの」など18編。最後の1行のなかで、私がいちばんドキッとしたのは――
「見たな」
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
図書館のプロが教える〈調べるコツ〉……図書館っていいなあ
http://booktrain.exblog.jp/16116418/
2011-06-12T09:42:38+09:00
2011-06-12T09:42:36+09:00
2011-06-12T09:42:36+09:00
booktrain
●雑学・実用・ビジネス
図書館のプロが教える〈調べるコツ〉
浅野高史+かながわレファレンス探検隊著
柏書房
2006年9月25日刊
定価:本体1800円+税
あかね市立図書館という架空の、どこにでもありそうな図書館が舞台。勤続20年・サービス係長・男性とか、勤続8年・児童コーナー担当・女性とか、臨時職員・女性などといった9人のスタッフが、利用者のさまざまな調べものの依頼に対応する(これをレファレンス・サービスという)日々の仕事を語るというスタイルの本。楽しく読めて、図書館でものを調べるコツがわかる、なかなかのすぐれもの。一義的には図書館スタッフ向けの本かもしれませんが、必要があって何かを調べようとするすべての人に役立つ内容を含んでいます。
構成としては、世界のことを調べる、身近な生活のことを調べる、子どもや教育のことを調べる、など7章にわけて、40件のレファレンス・サービスのショート・ストーリーが収録されています。たとえばこんな感じです。
・トイレットペーパーの幅はどうやって決められたのか?
・「亀が空を飛びたくなったので」という」話は何に出ていますか?
・30年前にラジオで聴いた『ペスよおをふれ』の原作を読みたい
・張飛や関羽はどんな料理を食べていたのか?
・宇宙食の変遷について知りたい
・国賓の待遇について書かれたものはないか?
きりがないからやめますが、他にもまあいろいろ面白い質問があって、経験もキャラも異なる9人のスタッフが、持てる知識とサービス精神で利用者が満足するレベルの回答を探して奮闘します。
私の感想ーー
・こんなことも調べてくれるんだ!(「ラヴェル作曲のバレエ組曲「マ・メール・ロワ」のもとになった話がいくつかあるが、その中の「緑色の蛇」を読みたい。午後に行くから、それまでに調べておいてね」って、あなた誰ですか?)
・ネット依存はバカになる! 一見、ネットで調べればすぐじゃん、と言いたくなるような質問も出てきますが(透明度の一番高い湖はどこ)、ちゃんと調べて行くと、いろいろ奥が深い事実や真相が隠されている。
・図書館を衰退させてはいけない。
・図書館の仕事って楽しそう! 図書館に行って、「定年退職後に図書館で働く方法を書いている本」を教えてもらおうっと。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
将棋の子……将棋に拒絶されながらも将棋を愛する男たちの人生
http://booktrain.exblog.jp/16114833/
2011-06-11T22:57:00+09:00
2011-06-11T23:03:44+09:00
2011-06-11T22:57:26+09:00
booktrain
●自伝・評伝
将棋の子
大崎善生著
講談社文庫
2003年5月15日刊
定価:本体590円+税
『泣き虫しょったんの奇跡』を読んで、がぜん将棋の奨励会という世界に興味が湧き、この本を続けて読みました。
「将棋の子」というのは、奨励会に所属するプロ棋士の卵たちのこと。著者は元『将棋世界』編集長で作家の大崎善生。26歳までに四段になれず奨励会を退会していった元棋士の「その後の人生」を描いた本です。著者にとってとくに因縁浅からぬ一人の奨励会退会棋士、成田英二の人生を辿りながら、その流れの中で他の退会者の人生も印象深く紹介しています。
それにしても奨励会(正式名称は社団法人日本将棋連盟付属新進棋士奨励会)というのは過酷な世界です。そこで生き残るには、成田英二は純朴すぎたのかもしれません。退会後の彼はあまりにも無防備、失礼を承知で言えば愚かとさえいえる人生を送ります。生活の基盤とすべき親の遺産300万円を数日のギャンブルで失い、パチンコ店の住み込み店員、そこをリストラされてからはサラ金の取り立てを逃れてタコ部屋暮らしの古紙回収業、給与明細で差し引かれている経費項目の意味さえわかっていない、というありさまです。
しかし、そんな成田を見る著者のまなざしにはやさしさがあります。二人がファミレスで向き合ってすわっているとき、成田が電話の相手に、いま「友達と一緒なんだ」と言ったときの自らの感情をこう綴っています。「成田の口からこぼれた友達というわかりやすく単純な言葉に不意をつかれ、なぜか私は目頭が熱くなった」(p.309)と。
著者自身、危うい青春時代をすごしながら将棋と出会うことで人生に錨を下ろした人です。著者は本書で、自らの人生についても掘り下げて語っていて、それが本書の魅力でもあるのですが、成田英二の「その後の人生」を辿って北海道で十数年ぶりに再会したときは、将棋雑誌の編集長という安定した身分を捨てて作家として独立しようかという内面の迫りを感じている時期でした。きっと自分自身の「その後の人生」に不安も抱いていたことでしょう。元奨励会員が「友達」と言ってくれたとき、プロ将棋のシステムとしての奨励会は厳しい世界だけれども、将棋の世界はただ厳しいだけの世界ではない、少なくとも成田英二は自分という友達を得る、自分は成田英二という友達を得た、というあたたかい励ましを感じたのではないでしょうか。
●ブログランキングに参加しています。ワンクリックでご支援ください。
●スポーツ系ブログ▶横浜テニス研究所にもお立寄りください。
]]>
https://www.excite.co.jp/
https://www.exblog.jp/
https://ssl2.excite.co.jp/